前回の記事で紹介したプロンプト手法は手軽だが、毎回同じ指示を書くのは面倒だ。ワークフローを「一度作って何度も使い回す」仕組みにできれば、業務効率は飛躍的に向上する。
その課題を解決するのが、ノーコードAI開発プラットフォーム「Dify(ディファイ)」だ。本記事では、Difyがなぜマルチエージェント構築に優れているのかを解説し、実際の構築手順を紹介する。
なぜDifyなのか──5つの強み
強み①:完全ノーコードでAIアプリを構築できる
Difyの最大の特徴は、プログラミング知識ゼロでもAIアプリを作れる点にある。ドラッグ&ドロップでノードを配置し、線でつなぐだけでワークフローが完成する。AutoGenやCrewAIのようにPythonコードを書く必要がない。
従来、AIアプリ開発には専門エンジニアが必要だったが、Difyなら営業担当者やマーケターでも自分の業務を自動化できる。実際にカカクコムでは、非エンジニアの社員がDifyを使って約100種類のAIツールを開発し、年間9,000時間の業務削減を実現した。
強み②:複数のLLMを自由に切り替えられる
Difyは単一のインターフェースからGPT-4o、Claude、Gemini、Llamaなど主要なLLMをすべて利用できる。モデルごとにAPIキーを管理する手間がなく、タスクに応じて最適なモデルを選択可能だ。
たとえば、分析タスクにはClaude、クリエイティブな生成にはGPT-4o、コスト重視の大量処理にはGemini Flashというように使い分けられる。
強み③:RAG(検索拡張生成)が標準搭載
Difyにはナレッジベース機能が組み込まれており、PDF・テキスト・Notionなどの社内ドキュメントをアップロードするだけでRAGを実現できる。
一般的なRAG構築にはベクトルDB・エンベディング・検索ロジックの実装が必要だが、Difyならファイルをドラッグ&ドロップするだけで完了する。「社内FAQ」「製品マニュアル検索」「契約書チェック」などの業務に即座に適用可能だ。
強み④:エージェントノードでマルチエージェントを実現
2025年3月のv1.0.0で追加されたエージェントノードは、Difyをマルチエージェント構築ツールへと進化させた。
エージェントノードは、ユーザーの質問に応じて自律的にツールを選択・実行する。Function Calling戦略(明確なタスクに最適)とReAct戦略(複雑な推論に最適)を切り替えられ、複数のエージェントを連携させる高度なワークフローも構築できる。
これにより、前回の記事で紹介した「リサーチャー→ライター→エディター」のようなマルチエージェント構成を、一度設定すれば何度でも再利用できる形で実装できる。
強み⑤:オープンソースで商用利用可能
DifyはGitHubで公開されているオープンソースソフトウェア(OSS)であり、セルフホスト版は完全無料で利用できる。クラウド版も無料プラン(Sandbox)から始められるため、初期投資なしで導入検討が可能だ。
セルフホスト版を使えば、データを自社サーバーに保持できるため、セキュリティ要件の厳しい企業でも安心して導入できる。
なぜDifyなのか──5つの強み
ノーコードで本格的なAIアプリを構築できるプラットフォーム
完全ノーコードでAIアプリを構築できる
ドラッグ&ドロップでノードを配置し、線でつなぐだけでワークフローが完成
メリット
プログラミング
知識ゼロでOK
複数のLLMを自由に切り替えられる
GPT-4o、Claude、Gemini、Llamaなど主要LLMを単一インターフェースから利用可能
メリット
タスクに応じて
最適モデルを選択
RAG(検索拡張生成)が標準搭載
PDF・テキスト・Notionなどをアップロードするだけで社内ドキュメント検索を実現
メリット
ファイルを
ドロップするだけ
エージェントノードでマルチエージェントを実現
自律的にツールを選択・実行するエージェントを連携させ、高度なワークフローを構築
メリット
一度設定すれば
何度でも再利用
オープンソースで商用利用可能
セルフホスト版は完全無料。クラウド版も無料プラン(Sandbox)から開始可能
メリット
初期投資なしで
導入検討できる
導入事例
カカクコムでは、非エンジニアの社員がDifyを使って約100種類のAIツールを開発し、年間9,000時間の業務削減を実現
Difyの基本構造を理解する
チャットフロー vs ワークフロー
Difyには2種類のアプリタイプがある。
| タイプ | 特徴 | 適した用途 |
| チャットフロー | 対話型・会話履歴を保持 | カスタマーサポート、FAQ対応 |
| ワークフロー | バッチ処理・自動化向け | 翻訳、要約、データ分析 |
マルチエージェント構成を組む場合は、ワークフローを使うことで複数のLLMノードを順次実行できる。
主要ノード5種
- 開始ノード:入力変数を定義する起点
- LLMノード:GPT/Claude/Geminiなどを呼び出し、プロンプトを設定
- 知識検索ノード:ナレッジベースからRAGで情報取得
- 条件分岐ノード:if-then-else処理で分岐
- エージェントノード:自律的にツールを選択・実行(v1.0.0〜)
クイックスタート:10分で作るマルチエージェントワークフロー
ここでは「テキスト要約+質問生成」の2段階ワークフローを例に、構築手順を解説する。
手順1:アカウント作成とログイン
Dify公式(https://dify.ai)にアクセスし、GitHub・Google・メールのいずれかでアカウントを作成する。
手順2:新規ワークフロー作成
「スタジオ」→「最初から作成」→「ワークフロー」を選択し、名前を入力して作成。
手順3:開始ノードの設定
入力フィールドを追加。変数名「input_text」、タイプ「段落」、必須をONに設定。
手順4:要約LLMノードを追加
「+」ボタンからLLMノードを追加し、以下のシステムプロンプトを設定:
あなたは優秀な要約者だ。以下のテキストを3文以内で要約せよ。
ユーザープロンプトには変数{{input_text}}を挿入。
手順5:質問生成LLMノードを追加
2つ目のLLMノードを追加し、以下のシステムプロンプトを設定:
あなたは優秀なインタビュアーだ。以下の要約に対して、読者が気になるであろう質問を3つ生成せよ。
ユーザープロンプトには前段の出力変数を挿入。
手順6:終了ノードで出力を定義
「要約結果」「生成された質問」の2つを出力変数として設定。
手順7:プレビュー&公開
右上の「プレビュー」でテスト実行し、問題なければ「公開」ボタンでデプロイ完了。
これで「入力テキスト → 要約 → 質問生成」のマルチエージェントワークフローが完成した。APIとして外部システムから呼び出すことも可能だ。
Difyワークフロー構築手順
「テキスト要約+質問生成」の2段階ワークフローを構築する
アカウント作成とログイン
Dify公式(dify.ai)にアクセスし、GitHub・Google・メールのいずれかで登録
新規ワークフロー作成
「スタジオ」→「最初から作成」→「ワークフロー」を選択し、名前を入力
開始ノードの設定
変数名「input_text」、タイプ「段落」、必須をONに設定
要約LLMノードを追加
「+」からLLMノードを追加し、システムプロンプトを設定
User: {{input_text}}
質問生成LLMノードを追加
2つ目のLLMノードを追加し、前段の出力変数を参照
終了ノードで出力を定義
「要約結果」「生成された質問」の2つを出力変数として設定
プレビュー&公開
右上の「プレビュー」でテスト実行し、問題なければ「公開」でデプロイ
完成
「入力テキスト → 要約 → 質問生成」のマルチエージェントワークフローが完成!
APIとして外部システムから呼び出すことも可能
料金プラン(2025年11月時点)
| プラン | 月額 | メッセージクレジット | チームメンバー | アプリ数 |
|---|---|---|---|---|
| Sandbox(無料) | $0 | 200回(累計) | 1名 | 10個 |
| Professional | $59 | 5,000回/月 | 3名 | 50個 |
| Team | $159 | 10,000回/月 | 50名 | 無制限 |
| Enterprise | 要相談 | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
セルフホスト版を選べば、ソフトウェア自体は無料で、サーバーコストのみで運用可能だ。Docker Composeで簡単にデプロイでき、データを自社管理したい企業に向いている。
まずはSandbox(無料)で試し、本格運用時にProfessional以上へアップグレードするのがおすすめだ。
他ツールとの比較:Difyを選ぶべき場面
| 比較軸 | Dify | AutoGen | CrewAI | Langflow |
|---|---|---|---|---|
| 難易度 | ノーコード | Python必須 | Python必須 | ローコード |
| RAG | 標準搭載 | 別途実装 | 別途実装 | 標準搭載 |
| エージェント | v1.0.0〜対応 | 高度に対応 | 高度に対応 | 限定的 |
| 日本語対応 | ◎ | △ | △ | ○ |
| 商用利用 | 条件付きで可 | 可 | 可 | 可 |
Difyを選ぶべき場面:
- プログラミングなしでAIアプリを作りたい
- 社内ドキュメントを活用したRAGを素早く構築したい
- まずは小さく試して、成果が出たら拡張したい
AutoGen/CrewAIを選ぶべき場面:
- 複雑なマルチエージェント協調が必要
- 既存のPythonシステムに統合したい
- エージェント間の細かな制御が必要
まとめ
Difyは「ノーコードでマルチエージェントを構築できる」という点で、他のツールにはない独自のポジションを持っている。
- 非エンジニアでもAIアプリを作れる
- 複数LLMを自由に切り替えられる
- RAGが標準搭載されている
- エージェントノードでマルチエージェントを実現できる
- オープンソースで無料から始められる
まずはSandbox(無料プラン)でワークフローを1つ作ってみてほしい。10分で「AIがAIを呼び出す」仕組みを体験できるはずだ。
参考文献
[1] Dify公式ドキュメント https://docs.dify.ai/ja-jp
[2] Dify公式「ワークフロー」 https://docs.dify.ai/ja-jp/guides/workflow
[3] Dify公式「エージェントノード」 https://docs.dify.ai/ja-jp/guides/workflow/node/agent
[4] アクロクエストテクノロジー「Dify v1.0.0 エージェントノード解説」 https://acro-engineer.hatenablog.com/entry/2025/03/13/120000
[5] Algomatic「Dify導入企業の成功事例」 https://magazine.algomatic.jp/dify-success-cases-2025-ai-implementation-guide
[6] AI Walker「Difyの料金プラン解説」 https://walker-s.co.jp/ai/dify-pricing/

