管理部門AI活用の新潮流:「守りの自動化」から「攻めの知見化」へ
企業のバックオフィス(管理部門)はこれまで、いかにミスなく効率的に業務を処理するかという「守り」の役割が中心でした。しかし近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)や生成AIの普及により、その役割は大きく転換しつつあります。単純な定型業務はAIによる自動化で省力化できる一方、高度なデータ分析や戦略策定への注力によって、管理部門自体が経営に貢献する「攻め」の役割を担うことが求められているのです。
実際、経理・財務領域におけるAI活用は急速に拡大しています。KPMGの調査によれば、世界の企業の71%が既に財務業務にAIを導入し、その半数以上が生成AIを本格運用していると報告されています。

(出所)KPMG global AI in finance report
つまりAI活用は一部先進企業だけの試みではなく、多くの企業にとって避けられないテーマになってきました。AIによって日常のExcel集計作業や手作業を削減し、戦略的な業務に専念できる環境を整えることが、いまやCFO含む経営陣にとって重要な課題となっています。
こうした背景を踏まえ、本記事では管理部門におけるAI活用を“守りの自動化”から“攻めの知見化”へ転換するポイントを考察します。財務・人事・ガバナンスそれぞれの領域でのAI活用イメージと、企業価値向上へのつながり、さらに導入成功のためのマネジメント視点について、最新動向を交えながら解説します。
分野別:財務領域でのAI活用 – データ分析と予測で経営を支える
財務(経理)部門では、AIが定型業務の効率化だけでなく、経営への示唆提供に活躍し始めています。例えば会計データの自動分析では、AIが過去の財務実績から必要な数値を抽出し、月次の予算対実績分析レポートを自動作成することが可能です。これにより、経理担当者はレポート作成作業から解放され、分析結果を踏まえた経営層への提言などコア業務に集中できます。また、AIは膨大な取引データや経済指標を瞬時に解析できるため、異常値の検知やリアルタイムの業績モニタリングにも威力を発揮します。例えば売上や費用の異常な変動をAIがリアルタイムに察知し、早期に経営陣へ警告することで、迅速な対策立案が可能となります。
さらに、キャッシュフロー(CF)の予測にもAIが利用されています。従来は財務担当者の経験や勘に頼っていた資金繰り予測も、AIが過去データや市場動向を学習することで精度を向上させています。具体的には、入出金パターンや季節変動要因を機械学習モデルが捉え、将来数ヶ月の資金推移を予測します。これにより、将来の資金不足リスクを早めに察知したり、余剰資金の効果的な活用策を検討したりと、財務戦略に余裕を持って臨めるようになります。
AIは統合報告書の作成・分析支援にも寄与し始めています。統合報告書は財務・非財務情報を統合し企業の価値創造ストーリーを伝える重要な資料ですが、その多くは非数値の記述情報であり分析・作成に時間を要します。近年、アナリストや経営企画担当者は生成AIツールを活用して統合報告書の内容分析を効率化しており、「定性的情報の多い統合報告書をAIで分析すると非常に助かる」という声も上がっています。例えば、PDFの統合報告書をAIに読み込ませて要点を抽出したり、他社の統合報告と比較して自社の開示の抜け漏れをチェックする、といった使い方です。将来的には、AIが自社の財務データとESGデータを統合的に分析し、統合報告書のドラフトを生成するような支援も現実味を帯びてきています(既に一部では試行されています)。財務部門がこうしたAIツールを活用すれば、開示資料作成の負担軽減だけでなく、投資家に響く戦略メッセージの磨き込みにより多くの時間を充てることができるでしょう。
このように、財務領域のAI活用は「経営の羅針盤」をより高度化するポテンシャルを秘めています。日々の帳簿や報告を正確・高速に処理するのはもちろん、そこから得られる示唆を将来予測や戦略立案に繋げる――財務部門は単なる計数管理部門から、データドリブンな意思決定を支える戦略パートナーへと進化しつつあります。
分野別:人事領域でのAI活用 – 適材適所の配置と採用の高度化
人事部門でもAI活用が広がり、「ヒト」に関わる判断の質向上が期待されています。特に注目されるのが、人材アロケーション(配置・異動)の最適化です。AIは社員の希望やキャリア志向、適性検査結果、保有スキル、過去の異動歴、評価データなど膨大な情報を総合分析し、最適な配属先や異動プランを提案できます。これにより、各人の志向や強みが最大限発揮できる部署・役割を見出し、人材のミスマッチを防止すると同時に、社員のモチベーション向上や定着率の改善にもつながります。たとえばAIが「営業経験と分析スキルを持つAさんは、新規事業開発チームでその能力を活かせる可能性が高い」と提案するといった具合です。従来は人事担当者の経験に頼っていた配置判断も、AIの客観分析を参考にすることで、より根拠のある戦略的人材配置が可能となります。
社内スキルの可視化にもAIが力を発揮します。従業員一人ひとりの経験業務や評価データをAIで分析することで、組織全体のスキルマップを作成することができます。これにより、「我が部署にはどんな専門スキルが足りないのか」「将来必要になるスキルは何か」といったギャップを客観的に把握でき、研修や採用計画をデータに基づき策定することが可能になります。例えば、AI分析によって「データサイエンス系のスキル保有者が社内に少ない」と分かれば、早期に育成プログラムを用意したり、中途採用で補強したりといった手が打てます。社内に眠る人材の発掘にも役立ち、プロジェクトに最適な人員を社内から見出す、といったタレントマネジメントの高度化も期待できます。
採用業務の効率化・高度化もAIが得意とする分野です。具体的には、応募書類のスクリーニングにAIを用いる例が増えています。応募者の履歴書・職務経歴書をAIが分析し、自社の求める経験やスキルとのマッチ度合いをスコアリングすることで、大量の応募者から有望候補者を迅速に抽出できます。リクルーターは機械的な書類チェックの負担を軽減でき、人間ならではの判断が必要な面接や最終選考に集中できます。また、AIによる面接分析も登場しています。録画したオンライン面接の映像・音声をAIが解析し、受け答えの内容や話し方の特徴から「論理的思考力が高い」「協調性がうかがえる」といった評価ポイントを抽出するツールもあります。これらを参考にすることで、面接官の主観を補完し、より公平で客観的な採用判断につなげることができます。
さらに従業員エンゲージメントの分析や退職リスクの検知にもAIが活用されています。たとえば、出勤状況・残業時間などの勤怠データや社員アンケート結果をAIが解析し、離職につながる兆候を早期に発見する試みです。ある部署で残業過多や有給未消化が続いていることをAIが検知すれば、人事は早めにフォローアップできますし、アンケートの自由記述からAIが社員の不満トピックを抽出すれば、適切なケア施策を打つことができます。これにより人材流出の防止や職場環境の改善にデータドリブンに取り組めるようになります。
このように、AIは人事領域で「人を見る眼」を強化するツールとなっています。人間の直感や経験にAIの客観分析を組み合わせることで、人事部門は企業にとって最も重要な資源である「人材」を的確に活かし、育て、惹きつける戦略を立案できるようになるでしょう。結果として、人事部門は単なる管理部門から、経営戦略の一翼を担うパートナーへと役割を高めていくことが期待されます。
分野別:ガバナンス領域でのAI活用 – 内部監査の高度化とリスク検知
ガバナンス領域(内部監査・リスク管理・法務など)でもAI活用が進み、企業の透明性とリスク対応力を高める試みが始まっています。まず注目すべきは内部監査業務へのAI導入です。内部監査部門ではこれまで、限られたサンプルを人がチェックして不正やエラーを検出する手法が一般的でした。しかしAIの活用により、全取引データを継続的(Continuous)に監視し、異常をリアルタイムに検知することが可能になりつつあります。たとえば膨大な会計取引をAIが24時間体制でモニタリングし、通常と異なるパターン(例:不正の疑いがある仕訳や支出)を検知したら即座にアラートを上げる、といった仕組みです。これにより、従来は四半期に一度の監査で見逃していたような問題も早期発見・対処できるようになります。
AI導入によって内部監査人の役割も変化しつつあります。単純なチェック業務はAIに任せ、人間の監査人はAIが検知したリスクへの洞察や戦略的な分析に注力する方向です。実際、「AIによる自動化はできても、最終判断には人間の洞察が不可欠」とされ、監査人はAIの出力を評価・解釈して経営に助言する“Trusted Advisor”としての役割が期待されています。デロイトの報告でも、生成AI等の活用で内部監査は業務効率と品質を高めつつ、経営陣の信頼できるアドバイザーへの変革を目指せると述べられています。これは、AIが定型的な監査タスクを担うことで、人間はより高度な判断や付加価値の高い業務にシフトできるからです。
リスク管理の分野でもAIは強力な武器になります。企業が直面するリスクはコンプライアンス違反からサイバー攻撃まで多岐にわたりますが、AIは大量の内部・外部データを横断的に分析してリスクの兆候を早期に察知できます。例えば、不正アクセスのログや取引データの異常、SNS上で拡散する風評をAIがモニタリングし、リスクスコアを算出するといった取り組みです。これによって、「まだ表面化していない潜在リスク」を洗い出し、事前に手を打つ予見的なリスクマネジメントが可能になります。また法務領域でも、契約書レビューにAIを使いリスク条項を自動検知したり、関連する判例を瞬時に検索したりするツールが登場しています。契約実務の精度とスピードが上がれば、企業の法的リスクも下げることができます。
AI活用拡大に伴い、説明責任(アカウンタビリティ)の重要性も増しています。社内外のステークホルダーに対して「どの業務にどんなAIを使い、どう意思決定に反映させているか」を説明できるようにしておくことが、信頼確保の観点から求められます。日本でも2025年施行の生成AI関連のガイドラインで企業に高い透明性が求められており、AIの活用プロセス自体を適切に管理・記録し、外部に説明できるガバナンス体制を構築することが急務です。たとえば、「AIが出した結論に基づき不適切な判断をしていないか」「AIに与えたデータやルールは妥当か」といった点を第三者に説明できる資料を整備する、といった取り組みが考えられます。これは守りの観点に留まらず、自社のAI活用方針を明示できれば取引先や投資家からの信頼性向上につながり競争優位にも資すると指摘されています。ガバナンス部門は率先してAI活用のルール整備・モニタリングを行い、企業全体のAIリスク管理をリードする役割が期待されています。
以上のように、ガバナンス領域でのAI活用は「守りの強化」と「攻めの信頼構築」の両面で効果を発揮します。リスク発見と内部統制の精度を高めつつ、透明性あるAI活用で企業の信用力を高める——ガバナンス部門はまさにAI時代の企業価値を陰で支える重要な存在となっていくでしょう。
非財務情報のAI可視化で「見えない企業価値」を見える化
企業価値を評価する上で、財務数値に表れない非財務情報(無形資産やESG要素など)の重要性が高まっています。しかし非財務情報の多くは定性的・文章的であり、定量化・可視化が難しいという課題がありました。ここでもAIが新たな解決策を提供しつつあります。
具体的には、AIとビッグデータを活用して非財務指標を定量スコア化する取り組みが登場しています。たとえば国内のあるプラットフォームでは、企業の環境・社会貢献度といった従来は「定性的に語られやすい」ESG要素をビッグデータとAIで分析しスコアリングしています。このプラットフォームでは、企業が入力した約40項目のESG関連データや公開情報をもとにAIが診断を行い、ESGスコアレポートを自動生成して現状把握や目標管理に役立てる仕組みです。
また蓄積された大量の非財務データと財務データをAIが横断分析することで、「どの非財務要素が財務パフォーマンスに影響しているか」といった因果・相関関係まで洞察しようという試みも始まっています。
このようにAIで「見えない価値」を数値化・可視化することには大きなメリットがあります。第一に、企業内での意識改革です。定量スコアとして可視化されることで、経営層や現場は非財務領域の課題と進捗を共有しやすくなります。例えば「自社の人的資本スコアは業界平均を下回っている」と可視化されれば、人材投資の必要性が社内で議論しやすくなるでしょう。第二に、社外への説明力向上です。投資家や金融機関に対して、「当社のESG取り組みはこのようにデータで管理・改善しています」と示すことができれば、企業価値の正当な評価や資金調達面で有利になります。実際、地方銀行A社では企業のESGスコアに応じて金利優遇を行う融資商品を展開しており、AIで算出された非財務データが金融支援にも直結しています。
さらにAIは、企業内に散在する定性情報(事業レポートや社内報告書など)から有用な知見を抽出することも得意です。統合報告書やCSRレポート、さらには社内のプロジェクト報告など文章データをAIが解析し、キーワードの出現頻度や文章の論調から組織風土やブランド価値を測る試みもあります。例えば「社員の提案制度に関する文書から社内イノベーション文化の成熟度をスコア化する」など、一見測りづらい社内文化的な価値もデータ化しようというアプローチです。これはまだ研究段階のものも多いですが、将来的には「人材のエンゲージメント」や「顧客からの信頼」といった無形の価値をAIが数値モデル化し、経営指標としてモニタリングすることも可能になるかもしれません。
重要なのは、こうした非財務情報の定量化は財務情報にはない新たな視点を経営にもたらす点です。実際、各種調査では、AIで算出した非財務資本スコアは財務指標とは異なる動きを示し、企業の隠れた価値を映し出す指標となり得ることが示唆されています。AIによって可視化された「見えない企業価値」を経営に取り入れることで、企業は短期的な利益だけでなく、長期的・持続的な価値創造力を高める戦略を描きやすくなるでしょう。
AI導入を成功させる3つのマネジメント視点
管理部門にAIを導入し、「守りから攻め」への転換を成功させるためには、単にツールを入れるだけでは不十分です。以下の3つのマネジメント視点を押さえることが重要です。
1. データ基盤の整備
AI活用の土台となるのはデータ基盤の整備です。どんなに高性能なAIツールも、投入するデータの質と整合性が低ければ十分な成果を発揮できません。例えば経理領域で請求書処理AIを導入する場合でも、入力データが紙だらけ・フォーマットばらばらでは精度が上がらず現場が混乱するだけです。実際、AI導入前に取引先への請求書様式統一や紙伝票のスキャンルール策定に3ヶ月を費やしたとの報告があります。このように、AI導入プロジェクトでは「データを使える状態にする」ことが成功の前提条件となります。
具体的な取り組みとしては、社内に散在するデータの統合・サイロ化解消や、マスタデータの整備、入力ルールの標準化などが挙げられます。人事情報・財務情報・業務実績などをデータレイクやウェアハウスにまとめ、部署横断で活用できる状態にすることが理想です。また、データガバナンス(品質・権限管理)の仕組みも重要です。AI活用は一度限りの施策ではなく継続的にデータを扱うものですから、データの正確性を維持しつつ必要な人がアクセスできる環境を整える必要があります。KPMGの調査でも、経理財務領域のAI活用は「データガバナンスやDX戦略と一体化させる必要性」が指摘されています。裏を返せば、データの整備なくしてAIだけ導入しても、思うような効果が出ない可能性が高いということです。
したがって、管理部門がAIプロジェクトを推進する際はまず現状の業務データを棚卸しし、どのデータをどう活用したいか、足りないデータは何かを見極めることが出発点となります。場合によっては紙や属人的に管理されていた情報をデジタル化するところから始めなければなりません。地道な作業に思えますが、この基盤整備を疎かにすると後工程でつまずくリスクが高いため、経営層も十分な支援と投資を行うべき領域です。
2. AIの成果を経営判断に結びつける
次に重要なのは、AIが生み出す分析や予測を実際の経営判断と結びつけることです。AI導入の目的はあくまで意思決定の質とスピードを高めることにあります。したがって、AIで新たな知見を得てもそれが現場や経営のアクションに反映されなければ宝の持ち腐れです。
経営管理の世界では、単なる業務のデジタル化ではなく、データに基づいて経営を動かす「判断のDX」が求められていると言われます。上場企業では非財務情報開示やROIC経営など、データに裏付けされた説明責任が強まっており、中堅企業でも事業の複雑化で勘や経験だけの判断が限界に来ています。こうした環境変化の中、「データをどう集めるかから、どう経営に活かすかへ」と焦点がシフトしているのです。
実践的なポイントとしては、AIの分析結果を意思決定フローに組み込む仕掛けが考えられます。例えば、AIが毎月生成するリスクレポートを経営会議の定例アジェンダに入れる、AI予測したシナリオを経営計画策定の前提条件に加える、といった具合です。経営会議にAIアシスタントを同席させ、リアルタイムでデータ照会・シミュレーションを行う先進企業の例も出てきました。同社では、過去の経営判断と市場データをAIが分析し、投資判断の最適解を提案する仕組みを経営会議で活用しています。このように、AIのインサイトを経営陣がタイムリーに活用できる環境を整えることが肝要です。
また、現場の判断との接続も見逃せません。管理部門のAI分析を各事業部門の現場マネージャーが参照し、日々の業務判断に役立てるよう促すことも重要です。例えば、人事AIが示したエンゲージメント低下のサインをラインマネージャーにフィードバックし、早期のチームケアにつなげる、財務AIの予測を営業部門の計画修正に反映してもらうなど、部門横断のデータ共有とコラボレーションが求められます。
そのためには、管理部門自身がビジネス視点を持ってAIの結果を解釈し発信する役割を担う必要があります。ただ数字を出すのではなく、「この指標の悪化は○○の市場変化が影響しているようです。対応策として△△が考えられます」というように、経営に寄り添ったインサイトとして届けることが理想です。AI導入にあたって外部コンサルやベンダーの力を借りる場合も、最終的には自社の経営課題に即した使いこなしができるよう、内製化・ノウハウ蓄積を目指すべきでしょう。
3. 組織文化の変革と人材育成
最後に忘れてはならないのが、組織文化の変革と人材の育成です。AIを活用した「攻めの管理部門」への転換は、技術導入以上に人と組織のマインドセット変革が鍵を握ります。
まず経営層自身が、データやAIを重視する姿勢を明確に示すことが出発点です。にもある通り、経営トップが率先して“データで経営する”姿勢を打ち出す企業は、そうでない企業に比べてDX浸透がスムーズです。トップが会議でデータに基づく発言を増やしたり、AI活用の成果を評価するメッセージを発信したりすれば、組織全体の意識も変わっていきます。
次に中間管理職層の役割も重要です。現場を束ねるマネージャーがデータ活用に前向きで、「数字で語る文化」を育てることが求められます。管理職が自部署のKPIやAI分析結果を積極的に活用・共有する姿勢を見せれば、メンバーも追随しやすくなります。また、現場の不安や抵抗感に向き合うコミュニケーションも欠かせません。AI導入初期には「自分の仕事がAIに奪われるのでは」「ツールの使い方が難しそうだ」といった声も出がちです。そこで、各部門ごとに説明会を開いたり、成功事例を紹介したりして理解促進を図ることが大切だと指摘されています。現場の疑問や不安に丁寧に答える場を設けることで、AIへの抵抗感は次第に薄れ、活用が進みます。
人材育成の観点では、データリテラシーやAIリテラシー向上の研修が有効です。AI時代の管理部門には、ツールを使いこなすスキルだけでなく、AIの提案を批判的に検討し意思決定に活かす判断力が求められます。そのための素地として、統計やデータ分析の基本知識、AIの長所短所の理解、そしてビジネスへの応用力を高める研修を継続的に実施するとよいでしょう。特に若手だけでなく中堅以上の社員も巻き込み、組織全体で学習する文化を醸成することがポイントです。継続的な学びを支援する仕組み(社内勉強会やeラーニングの提供など)を組み込み、成功事例を共有・称賛する風土を作ることで、「データを語り、AIを活かす」企業文化が定着していきます。
最後に、「攻め」と「守り」のバランスも忘れないようにしましょう。AI活用を推進する攻めの姿勢と同時に、情報セキュリティやプライバシー保護など守りの体制整備も経営課題です。社員が安心してAIを使える環境を整えるために、利用ルールの策定やモニタリング体制の構築(シャドーAIの防止策等)にも経営として配慮が必要です。攻めと守りの両輪を意識したAI導入が、長期的な成功につながるでしょう。
まとめ:AI時代に企業価値を牽引する管理部門へ
生成AIをはじめとする人工知能技術の進化によって、管理部門は今まさに変革の主役になろうとしています。これまで縁の下で企業を支えてきた財務・人事・内部監査といった部門が、AIを武器に経営の最前線で価値を生み出す存在へとシフトしつつあります。単なる業務効率化の「守り」に留まらず、データ分析から未来予測、戦略提言まで行う「攻め」の管理部門は、企業の持続的成長に欠かせないAI経営の要となるでしょう。
もっとも、こうした変革は一朝一夕に実現するものではありません。AI導入の成功企業はスモールスタートで成果を確認しながら段階的に拡大しているとされ、焦らず着実に成功パターンを確立することが肝心です。また、取り巻く法制度や社会の目も刻々と変化しています。最新のAIガバナンス動向にアンテナを張りつつ、自社に最適な形でAIを組み込み、企業文化と一体化させることが求められます。
重要なのは、「管理部門×AI」は経営においてコスト削減以上の価値創出の源泉になり得るという視点です。財務部門がデータに基づき企業の未来を方向付け、人事部門がAIで人材力を最大化し、内部監査部門がリスク管理と信頼性向上で攻めの経営を下支えする――そんな姿が現実のものとなれば、企業価値はこれまでにない高みに達するでしょう。管理部門の皆様には是非、守りの殻を破りAI活用に挑戦していただきたいと思います。それはひいては企業全体の競争力強化とステークホルダー価値の向上につながる道でもあるのです。

