序章
なぜ“AIインフラ”が次のエネルギー戦争になるのか
生成AIをはじめとする人工知能(AI)の爆発的な普及により、世界の電力需要構造が大きく変貌しつつあります。国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2030年までにデータセンター由来の電力需要は現在の2倍以上となり、日本全体の年間消費量(約945TWh)に匹敵する規模に達する見通しです。特にAI処理に最適化されたデータセンターの消費電力量は4倍以上に拡大すると予測されています(出所:IEA)。米国においてはこの傾向が顕著で、2030年には新たな電力需要増加分の約半分近くをデータセンター(主にAI用途)が占める可能性があります。まさに「AIの時代の電力インフラを制する者が次世代の産業競争を制す」と言っても過言ではなく、これが“次のエネルギー戦争”と形容される所以です。

(参考:GPU computation cost, 2006-2024, and notable AI model computational training size, 2014-2024、出所IEA)

(参考:Total data centre electricity consumption by equipment type and data centre type, 2005-2024、出所IEA)
この新たな潮流に備え、米国は電力インフラの再構築に全方位で乗り出しています。小型モジュール炉(SMR)などの次世代原子力発電への巨額投資、高圧直流送電(HVDC)網の整備、再生可能エネルギー(風力・太陽光)の大量導入、さらにはデータセンターの冷却システム高度化まで、あらゆる領域でインフラ強化策が動き出しました。実際、2025年10月28日、日米両政府はAI需要による電力逼迫を見据え、総額60兆円規模(約3935億ドル)日米間の投資に関する共同ファクトシート」を発表しました。その中には、ウェスチングハウス社との協業による原子炉(AP1000型やSMR)の建設や、GEベルノバ(GE Vernova)-日立による原子力プラント展開、ベクテルやキウィットと組んだ送配電網(変電所・送電線)整備、さらにはソフトバンク等による大規模電源開発まで含まれています。加えて、三菱電機やTDK、フジクラなど日本企業の技術を活用したAI・データセンター向け電源システム強化(計750億ドル規模)も計画の一部となっています。米国が「AI時代の電力不足」という課題に対し、国家を挙げてあらゆる手段で挑もうとしていることが、この計画から読み取れるでしょう。
(参考:日米間の投資に関する共同ファクトシート)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/dialogue/251028_fact_sheet_2.pdf

(参考:データセンターの年間電力消費量(家庭の電力使用量に換算)と、都市部への距離に応じた施設の立地集中度との関係、出所:IEA)
一方で日本企業の現状はどうでしょうか。日本の重電メーカー各社は、原子力発電、火力タービン、送配電機器、蓄電池、パワーエレクトロニクス、冷却技術といった個々の要素技術では世界有数の実力を持っています。しかしながら、「技術はあるが戦略がない」とも揶揄されるように、それらの技術をどのように組み合わせて新たなエネルギー需要の波に乗せるかという全体戦略が不足しているのが実情です。実際、先の60兆円の内訳を見ても、参画企業21社中、日本企業は全体の3分の1程度に留まり、しかも主に“AIインフラ強化”など周辺領域への関与にとどまっています。言い換えれば、米国主導のプロジェクトの下で「技術提供者」として名を連ねるものの、ゲームチェンジャーとなり得る中核プロジェクトでは主導権を握れていない状況が透けて見えます。AIがもたらす電力需要激増という構造転換期において、日本勢が真にリーダーシップを発揮するためには、まずこの戦略面の課題を直視する必要があります。
第1章
日米首脳会談が示した“新・原子力・電力連携”の構造
2025年の日米首脳会談では、AI時代を見据えたエネルギー協力が大きなテーマとなりました。その成果として発表された「日米間の投資に関する共同ファクトシート」は、前述の60兆円規模の対米投資計画の骨子を成すものです。この新たな枠組みの特徴は、原子力発電を含むあらゆる電力インフラ分野での日米連携強化と、その前提としての“米国国内での雇用創出・現地生産”重視という2点に集約されます。
まず、連携強化の具体像として日米企業のペアによるプロジェクト推進が挙げられます。例えば、GEベルノバと日立による次世代原子炉(SMR)開発・建設はその代表例です。GE日立の原子力アライアンスは、カナダや東欧でSMR「BWRX-300」の導入計画を進めており、米国でも政府支援の下で商用化に向けた動きが本格化しています。また、米原子力大手のウェスチングハウスと日本の重工メーカー(例えば三菱重工など)が組む形で、既存大型炉のリプレースやSMRの展開を図る動きも想定されています。加えて、ソフトバンクと米建設大手ベクテルの連携も注目に値します。ソフトバンクはAIインフラ事業への巨額投資意欲を示し、ベクテルと共に米国内で大規模データセンター群とそれを支える電力インフラ建設に乗り出す計画です。このように日米それぞれの企業が強みを持ち寄り、「技術・資金の日本」と「市場・現地オペレーションの米国」が組む構図が鮮明になっています。
次に、この新枠組みを語る上で欠かせないのが「新ルール:米国国内雇用・現地製造の重視」です。共同ファクトシートによれば、今回リストアップされた案件群は単なる輸出や融資ではなく、日本企業による対米直接投資を通じて米国での雇用創出や産業基盤強化に資することが強く求められています。裏を返せば、米国側は自国のエネルギー安全保障や産業振興に直結する形でなければ、たとえ日本の優れた技術であっても受け入れに慎重になるということです。実際、米商務長官(ラトニック長官)はインタビューで「第1号案件は電力分野で年内にも決定する」と述べていますが、その選定基準の一つには米国内経済への寄与度があると考えられます。
この方針に呼応して、先述のソフトバンクは早速米国現地での製造基盤確保に動きました。同社は台湾フォックスコンと協働でオハイオ州の工場を買収し、AIデータセンター向け機器の現地生産に乗り出す計画を表明しています。従来、日本の重電各社は自社工場から製品を輸出するビジネスモデルが中心でしたが、今や「現地に根差した供給体制なくして大型案件には参画できない」時代となりつつあります。つまり、技術力だけでなく、いかに米国の産業エコシステムの中に自社のポジションを築けるかが問われているのです。この新ルールの下では、日本企業同士が国内で連携しても不十分で、米国企業や政府との直接的なパートナーシップ構築が不可欠です。日米60兆円投資計画の本質は、単なる資金の流れではなく、「米国の産業復興とエネルギー安全保障」に日本企業がどう組み込まれていくかという構造転換だと言えるでしょう。
第2章
重電メーカーが直面する3つの戦略選択
上述のような環境変化の中で、日本の重電メーカーには大きく3つの戦略オプションが浮上しています。それは、(1) 米国企業とのジョイントベンチャー(JV)参画、(2) 自社単独での北米市場展開、(3) 国内拠点からの技術供給による間接貢献の三択です。それぞれメリット・デメリットが異なり、負うリスクの種類も異なります。以下で順に考察してみましょう。
- 米国企業とのJV参画 – 最もオーソドックスな選択肢は、現地の有力企業と組んでジョイントベンチャーやプロジェクト連合に参画する道です。メリットはまず政治リスクの低減です。地元企業と組むことで、米政府や規制当局から受け入れられやすくなり、補助金・許認可面でも有利に働く可能性があります。またパートナー企業の現地ネットワークやノウハウを活用できるため、市場参入障壁を下げられる点も利点です。資本リスクの面でも、単独で巨額投資をするより負担を分散できます。一方でデメリットは、自社の意思決定や取り分に制約が出ることです。合弁先に主導権を握られれば、自社の得意分野を十分に活かせない可能性もあります。また技術評価リスク、すなわち自社技術の優位性が十分に評価されず、パートナーの技術に取って代わられる恐れもあります。例えば、日本企業が持つ高効率ガスタービン技術をJVに提供しても、最終的な製品ブランドは米企業側になる、といったケースです。とはいえ、総合的なリスクは3案中で最も低いとも言えるため、有望なJV提携先がある場合は有力な選択肢となるでしょう。
- 独自事業での北米展開 – 次の選択肢は、自社主導で北米市場に乗り込む戦略です。例えば現地法人を設立し、米国内で発電所建設プロジェクトを自ら推進する、あるいは米国企業を買収して傘下に収めるようなケースが該当します。このアプローチのメリットは主導権を完全に握れることです。成功すれば利益も自社に集中し、自社ブランドで市場にインパクトを与えられます。また自社の描く長期ビジョンに沿って柔軟に事業を展開できる点も魅力です。しかしながら、伴うリスクは極めて大きくなります。まず政治リスク。外資単独となれば米国政府・議会の視線は一層厳しくなり、先述の現地雇用・生産に関する要求を独力でクリアしなければなりません。次に資本リスク。大規模発電所や送電網プロジェクトを一社で担うには数千億円規模の投資が必要であり、失敗した場合の損害も自社で抱えることになります。過去にも、日本企業が米国の原発事業に独自参入し多額の損失計上に至った例(※東芝の米原発子会社問題など)は記憶に新しいところです。さらに技術評価リスクもあります。自社単独ゆえに他社との技術比較に晒される場面が増え、仮に自社技術が米国基準で優位性を欠くと判断されれば、市場で採用が進まず投資回収が困難になる恐れもあります。それでも、社運を賭けてでも北米で独自の基盤を築きたいという強い意志と充分な体力がある企業にとっては、高リスク・高リターンの勝負に打って出る選択肢と言えます。
- 国内技術供給での間接貢献 – 三つ目の選択肢は、自社は直接現地に出ず、技術や製品を提供する裏方に徹する戦略です。具体的には、米国主導のプロジェクトに部品・機器サプライヤーや下請けエンジニアリング企業として参加する形です。メリットは、なんと言ってもリスクが低いことです。大規模投資を伴わないため資本リスクが極小で、政治的にも前面に出ない分矢面に立たずに済むでしょう。自社の得意分野に専念できるため、技術開発力を磨き続けることにも注力できます。実際、日立製作所は米国のSMR建設において機器供給やエンジニアリングで協力する方針を示し、発電事業そのものへの出資は行わない考えを明らかにしています。このように「装置は提供するがオーナーにはならない」という立ち位置です。ただしデメリットも明確です。まず収益機会の限定。主契約者ではないためプロジェクト全体の利益のごく一部しか得られず、価格交渉力も弱い立場に置かれます。また技術評価リスクも別の形で存在します。自社が供給する部品・技術がプロジェクトの中で代替可能と見做された場合、容赦なく他社製に置き換えられてしまう可能性があるからです。特に米国は自国企業による代替を模索しがちであり、「日本から買っていた部品を将来的には米国内調達に切り替える」といった展開も起こりえます。さらに、裏方に徹することで市場から見たブランド力や存在感が低下し、中長期的にはビジネス拡大の機会損失につながる懸念もあります。
以上三つの戦略は、それぞれ政治リスク・資本リスク・技術評価リスクのプロファイルが異なります。JV参画は政治的安定と資本効率を得やすい反面、技術主導権の一部放棄を伴い得ます。独自展開は高い政治・資本リスクを負う代わりに、成功時のリターンと技術主導の名声を得られます。間接貢献は低リスク安定型ですが、市場での存在感希薄化という長期課題を孕みます。自社の置かれた資金力・技術ポートフォリオ・経営ビジョンによって、どの戦略が「勝てるポジション」につながるかは変わってくるでしょう。重電各社はまず自社の強みと弱みを見極め、この三択の中で最適解を模索することが求められています。
北米向け戦略オプション比較
① 米国企業とJV参画
RISK: MEDIUMノウハウ活用とリスク分散を図る
- 現地パートナーの活用で政治リスクを軽減
- 既存ネットワーク利用で参入障壁を下げる
- 投資負担を分担し、資本リスクを分散
- 意思決定の自由度が低く、主導権を握り難い
- 自社技術がパートナーの下に埋もれる可能性
② 自社単独での展開
RISK: HIGH自社主導でプロジェクトを推進
- 事業の主導権とブランドを完全に掌握可能
- 成功時の利益を独占し、長期ビジョンを実現
- 外資単独のため政治・規制リスクが極めて高い
- 巨額投資が必要で、失敗時の損失負担が大きい
- 技術優位性が認められないと投資回収が困難
③ 国内からの間接貢献
RISK: LOW機器サプライヤーとして技術供給
- 大規模投資が不要で、資本・政治リスクが最小
- 得意な技術・部品開発の磨き込みに集中できる
- 下請け立場のため利益配分が小さく交渉力が弱い
- 技術が代替可能とみなされると切替リスクがある
- ブランド力が弱まり、中長期の成長機会を逃す
第3章
「電力×AI」時代の価値連鎖から見るポジショニング
では、各社が自社の強みを活かせる「勝てるポジション」とは具体的にどこなのでしょうか。そのヒントとして、「電力×AI」時代におけるバリューチェーン(価値連鎖)を分解して捉えてみましょう。AI需要の高まりによって電力インフラには新たな付加価値層が生まれており、ここでは発電から需要最適化までの5つの層に整理します。
- ①発電(Power Generation) – 電力の源泉となる発電領域です。従来からの火力・水力・原子力発電に加え、大規模な再生可能エネルギー発電(風力・太陽光)がAI時代には一層重要となります。AI対応データセンターの需要増に応えるには、クリーンで安定した大電力源が不可欠なため、SMRや次世代型原子炉の開発、洋上風力などの大規模再エネ導入が進むでしょう。日本企業にとっては、原子炉プラント技術(例:冷却系や燃料技術)、高効率ガスタービン、水素利用発電、洋上風車など各社の得意とする発電技術を武器に、この層でリーダーシップを取る道があります。
- ②変電・送電(Transformation & Transmission) – 発電した電気を需要地まで送り届ける送配電ネットワークの領域です。特に遠隔地の再エネ電力や分散型電源を大量に活用するには、HVDC(高圧直流送電)などの先進的な送電技術が鍵を握ります。米国でも大規模風力を都市部に送る新規HVDCプロジェクト(例:ニューメキシコ州のSunZia計画など)が動き始めていますが、日立エナジー(旧ABB社との合弁)に代表される日本勢の送電技術が早速採用されるケースもあります。また変電所や変圧器、配電制御装置といったグリッド機器も需要が拡大します。日本メーカー(東芝、三菱電機など)は世界トップクラスの変圧器・パワーエレクトロニクス技術を持ち、米国でもミッションクリティカル施設向け電源モジュール供給(約250億ドル規模)に参画予定です。自社が送電インフラに強みを持つなら、この層で「次世代の送電網を支える中核サプライヤー」となる戦略が考えられます。
- ③蓄電(Energy Storage) – 発電と消費の時間差を埋め、需給バランスを取る蓄電技術の領域です。AI需要による電力ピークに備えるには、大規模なバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)や揚水・水素などのエネルギー貯蔵が重要性を増します。特に再エネは出力変動が大きいため、その調整弁としての蓄電インフラ拡充は避けられません。日本企業は車載電池の分野で世界をリードしてきましたが、今後はその技術をグリッド規模の蓄電システムに応用し、「AIデータセンター群に安定電力を供給する蓄電ハブ」のような役割を果たせる可能性があります。実際、米国でも次世代電池や水素ストレージへの投資が活発化しており、日本勢が素材・制御技術で鍵を握る余地は大いにあるでしょう。
- ④制御(Control Systems) – 発電・送電・蓄電を統合し、需給をリアルタイムで制御するエネルギーマネジメントの領域です。AI時代には、需要変動が激しく瞬時に電力網へ負荷がかかるケースが増えるため、従来以上に高度な電力制御システムが必要となります。中央給電指令所のような大規模電力系統の制御から、個別のデータセンター内の電力供給管理まで、ソフトウェアとハードウェアを融合した制御技術が求められます。日本の重電各社は長年にわたり電力系統の制御システム(SCADAやDMS等)を手掛けており、その知見は強みです。さらに、パワーエレクトロニクス機器(インバータ、コンバータなど)やマイクログリッド制御などの分野でも独自技術を持っています。これらを活かし「電力網の頭脳」となるポジションを狙うのも一案です。米国市場でも、送電網のモダナイゼーションやスマートグリッド化は喫緊の課題であり、日本企業が制御システム供給で存在感を示せれば、不可欠なプレーヤーとして位置付けられるでしょう。
- ⑤AI最適化(AI-driven Optimization) – 最後に位置するのが、AI技術そのものを用いて電力供給と需要を最適化するレイヤーです。データセンター群や都市全体のエネルギー需要をAIで予測し、発電・蓄電リソースをダイナミックに振り向ける、といった高度需要予測・最適化サービスが想定されます。また、各データセンター内でもAIを使った電力使用効率の最適化(例えば負荷の平準化や冷却システムの省エネ制御)などが進むでしょう。この層は従来の重電メーカーにとって馴染みが薄い領域かもしれません。しかし、日本には高度なIT企業やスタートアップも多く存在し、重電×デジタルのコラボレーション次第では「AIとエネルギーの橋渡し役」を担うサービスを生み出せる可能性があります。例えば、電力需要データと気象データをAI解析して最適な発電プランを提示するといったソリューションは、技術的には既に芽生えつつあります。重電メーカー自らがAI部門を強化するか、あるいは専門企業と提携することで、この新領域に進出する道も開けるでしょう。
以上5つの層それぞれにおいて、自社の強みが最も活きるのはどこかを見極めることが「勝てるポジション」戦略の要諦です。例えば、自社が大型発電設備に強みを持つなら発電セグメントで主導的役割を果たすべきですし、送配電の技術・実績があるなら変電・送電セグメントで不可欠な存在になる戦略が考えられます。逆に、自社技術が突出していない領域で無理に勝負しても埋没する恐れがあります。「選択と集中」の発想で、価値連鎖全体の中から自社がリーダーシップを取れる領域を定め、そこに経営資源を投じることが肝要です。その際、上流から下流まで俯瞰したバリューチェーン分析を行うことで、各層の動向や競合状況が見えてきます。AI時代の電力インフラ市場は裾野が広がっているからこそ、自社にとって最適な土俵を慎重に見定める必要があるのです。
電力×AI バリューチェーン
AI需要で進化する5つの階層と、日本の重電メーカーが狙うべきポジション
発電Power Generation
火力・原子力・再エネなど、電力の源泉を生み出す。
大電力需要に対し、クリーンかつ安定した供給(SMR、洋上風力)が必須。
高効率ガスタービン、次世代原子炉プラント、水素発電技術
変電・送電Transformation & Transmission
発電所から需要地へ電力を届けるネットワーク。
遠隔地の再エネ取込のため、HVDCなど高度送電技術が鍵となる。
HVDC技術、変圧器、データセンター向け高信頼電源モジュール
蓄電Energy Storage
発電と消費の時間差を埋め、需給バランスを調整。
再エネ変動とピーク需要に対応する大規模BESSや水素インフラの整備。
車載電池技術の応用、次世代電池素材、グリッド規模の蓄電制御
制御Control Systems
全階層を統合し、電力系統をリアルタイムで制御。
激しい需要変動に対し、系統全体ときめ細かい個別制御の両立が必要。
系統制御(SCADA/DMS)、インバータ技術、マイクログリッド制御
AI最適化AI-driven Optimization
データ解析とAIで供給・需要・省エネを最適化。
高精度な需要予測、発電計画、データセンター運用の自動化。
重電×デジタルの融合、気象・需要データを活用したソリューション
バリューチェーン全体を俯瞰し、すべてを追うのではなく
「自社の強みが最も活きる層」を選択し、リーダーシップを取ることが重要。
終章
構想フェーズで外部知見を活用すべき理由
AIが変える電力インフラの潮流を踏まえ、自社の戦略オプションとポジショニングの方向性について論じてきました。最後に強調したいのは、まさに今のような「構想フェーズ」こそ外部の知見を積極的に活用すべきタイミングであるという点です。日本企業がこの未曾有の変革期に適切な一手を打つには、技術開発力だけでなくグローバルな制度・市場動向の把握と戦略立案力が欠かせません。しかしながら、日米双方の政策・補助金スキームや競合動向に精通した人材は社内に限られているのが一般的です。例えば、米国の補助金制度(インフレ抑制法のエネルギー関連優遇策など)や前述の60兆円投資計画に紐づく投資委員会の意思決定プロセス、さらにAI需要予測の最新モデルなど、専門知識なしに把握するのは困難です。
ここで有用なのが、エネルギー・戦略分野に強いコンサルティングファーム等の外部知見の活用です。第三者の視点と専門知見を導入することで、自社では気づきにくいリスク要因の洗い出しやポジション取りの妙手を提案してもらうことができます。特に今回は「技術そのものの優劣」よりも「どのポジションで参入するか」というストラテジーの巧拙が勝敗を分ける可能性が高い局面です。コンサルタントは、各企業の技術アセットや組織能力を客観評価した上で、先述の3つの戦略オプションのどれをどう組み合わせれば最適か、あるいは価値連鎖のどの層に注力すべきか、といった戦略シナリオを描く支援を行います。また、米国企業とのアライアンス構築や現地法人設立に際しても、交渉戦術やガバナンス設計について助言を得られるでしょう。
「参入ポジション戦略」を誤れば、せっかくの技術力も宝の持ち腐れになりかねません。逆に言えば、適切なポジションを見極めて参入すれば、必要な技術やパートナーシップは後からでも揃えられる場合があります。まさに今は各社が次の一手を構想するフェーズであり、このタイミングで専門家の知見を取り入れることは、将来の巨大市場での成否を左右する賢明な投資と言えるでしょう。
AIが牽引する電力需要の急拡大は、日本の重電・エネルギー企業にとって大きなチャレンジであると同時に、新たな飛躍のチャンスでもあります。重要なのは、テクノロジー志向に偏ることなく、ビジネスエコシステム全体を見渡した戦略思考を持つことです。エネルギーとAIが交錯する複雑な価値連鎖の中で、どのポジションなら勝てるのか——その答えを導き出すために、ぜひ早い段階から我々戦略コンサルティングファームの知見をご活用いただければ幸いです。日本発の技術が適切な戦略の翼を得て世界で飛躍することを、心から願ってやみません。

