マルチエージェントAIの始め方 -実装フレームワーク完全ガイド

前回の記事では、マルチエージェントの基本概念と、複数のAIに役割を分担させることで性能が向上する仕組みを解説した。GPT-3.5をエージェント型のワークフローに組み込むと正解率が最大95.1%にまで向上したという研究結果は、多くの読者に衝撃を与えたことだろう。

では、実際にマルチエージェントを導入するには、どのような選択肢があるのか。本記事では、2025年現在で利用可能な主要フレームワークを一覧で整理し、それぞれの特徴と適した用途を解説する。


目次

マルチエージェント実装の3つのアプローチ

マルチエージェントを実装する方法は、大きく3つに分類できる。

第一に、「プロンプトによる役割分担」だ。これは特別なフレームワークを使わず、ChatGPTやClaude、Geminiなどの既存AIに対して、プロンプトで複数の役割を順番に演じさせる方法である。導入コストが最も低く、今日からでも始められる。

第二に、「ノーコード・ローコードプラットフォームの活用」だ。DifyやLangflowといったツールを使えば、プログラミング知識がなくても、視覚的な操作でマルチエージェントシステムを構築できる。また、OpenAIが公開したSwarmは、教育目的の軽量フレームワークとして、マルチエージェントの学習やプロトタイプ作成に適している。

第三に、「本格的な開発フレームワークの活用」だ。AutoGen、CrewAI、LangGraphなどのPythonベースのフレームワークを使い、より高度なカスタマイズを行う方法である。企業での本番運用や、複雑なワークフローの自動化に向いている。

マルチエージェントの実装方法

マルチエージェントの実装方法

目的やスキルレベルに応じて、大きく3つの方法から選べる

1

プロンプトによる
役割分担

既存AIに対してプロンプトで
複数の役割を順番に演じさせる

ChatGPT Claude Gemini
難易度
今日から始められる
2

ノーコード・
ローコードツール

プログラミング不要で
視覚的に構築できる

Dify Langflow Swarm
難易度
学習・プロトタイプに最適
3

本格的な
開発フレームワーク

Pythonベースで高度な
カスタマイズが可能

AutoGen CrewAI LangGraph
難易度
企業の本番運用に向いている

主要フレームワーク比較表

フレームワーク開発元特徴難易度適した用途
SwarmOpenAI軽量、学習用に最適初級プロトタイプ・教育目的
DifyDify社ノーコード、GUI操作初級業務効率化アプリ開発
LangflowLangflowローコード、視覚的フロー構築初級AIワークフローの可視化
CrewAICrewAI Inc.シンプルな設計、直感的なAPI初〜中級チーム型タスク処理
AutoGenMicrosoft柔軟な会話設計、ツール連携に優れる中〜上級複雑なワークフロー自動化
LangGraphLangChainグラフ構造でワークフロー設計中〜上級条件分岐の多い処理

Swarm──教育・プロトタイプ向けの軽量フレームワーク

Swarmは、2024年10月にOpenAIが公開した実験的なフレームワークである。Pythonを使用しており、AIエージェント同士が連携し、自律的に複雑なタスクを進行できるように設計されている[1]。

マルチエージェントの概念を学ぶ入門として最適で、シンプルなコードで複数エージェントの協調動作を体験できる。ただし注意点がある。Swarmは実験的なフレームワークであり、教育目的に使用されることを意図している。そのため、実際の運用環境での使用は想定されておらず、公式なサポートは提供されない[1]。本番環境には別のフレームワークを検討すべきだ。


Dify──ノーコードでマルチエージェントを実現

Difyは、AIを使って誰でも簡単にアプリケーションを作れるプラットフォームである。プログラミングの知識がなくても、直感的な操作でチャットボットやエージェントを作成できるのが特徴だ[2]。

Difyには「チャットフロー」と「ワークフロー」の2種類がある。チャットフローは会話形式でユーザーとインタラクションを行うAIアプリケーションの開発に適している。一方、ワークフローは自動化処理やバッチ処理など、より広範なタスクの自動化に活用できる[3]。

Dify v1.0.0からはエージェントノードが導入され、ワークフローにエージェントを組み込むことが可能になった。これにより、複数のエージェントを操作可能なAIオーケストレーションシステムを構築できる[4]。


Langflow──視覚的にAIワークフローを構築

Langflowは、AIエージェントとワークフローを視覚的に構築し、デプロイするためのローコードフレームワークである。あらゆるAPI、モデル、データベースをサポートし、エージェントをエンドポイントに変換するAPIサーバを内蔵している[5]。

Difyと同様にGUI操作でワークフローを構築できるが、Langflowはより技術者向けの設計で、Pythonを使用してコンポーネントをカスタマイズできる点が特徴だ。段階的なプレイグラウンド環境でフローをテストし、改良する機能も備えている[5]。


CrewAI──チームワークに特化したフレームワーク

CrewAIは、マルチエージェント型AIソリューション用のオーケストレーション・フレームワークである。CrewAIのロールベースのアーキテクチャは、エージェント型AIを「労働者」の「クルー」として扱う設計思想を持つ[5]。

開発者は自然言語を使用して、エージェントの役割、目標、背景を概説できる。LangChainと比較してシンプルな設計思想に基づいており、直感的なAPIを提供しているため、初めてマルチエージェントに取り組む開発者にも扱いやすい[6]。


AutoGen──Microsoftが開発した本格派フレームワーク

AutoGenは、Microsoftが開発したオープンソースのマルチエージェントフレームワークである。複数のAIエージェントが協力して問題解決や複雑なタスクを遂行する環境を簡単に構築できる[7]。

AutoGenの主な特徴は4つある。まず、複数のAIエージェントの協調動作を可能にする点。次に、複雑なタスクの自動化を支援する点。そして、カスタマイズ可能で様々なニーズに適応できる点。最後に、必要に応じて人間の入力やフィードバックを取り入れられる点だ[7]。

AutoGenを使えば、人間が与える質問や依頼がシンプルであったとしても、専門の役割を持ったエージェントがタスクを実行するためのプロセスを考慮し、お互いに知恵を出し合いながら処理することができる[8]。


LangGraph──複雑なワークフローに対応

LangGraphは、LangChainエコシステム内に存在するフレームワークで、マルチエージェント・システムの複雑なワークフローのオーケストレーションに優れている。グラフ・アーキテクチャを適用し、AIエージェントの特定のタスクまたはアクションがノードとして表され、それらのアクション間の移行がエッジとして表される[5]。

循環的、条件付き、または非線形のワークフローに適しており、複雑な分岐処理が必要なシステムの構築に向いている。


目的別・おすすめフレームワーク選択ガイド

どのフレームワークを選ぶべきかは、目的と技術レベルによって異なる。

「今日から試したい」という方は、まずプロンプトによる役割分担から始めることをお勧めする。次の記事で詳しく解説するが、ChatGPTやClaudeに複数の役割を順番に演じさせるだけでも、マルチエージェントの効果を体感できる。

「ノーコードで業務効率化したい」という方には、Difyが最適だ。無料のSandboxプランで基本機能を試し、効果を確認してから有料プランへの移行を検討するとよい。より技術的なカスタマイズを行いたい場合は、Langflowも選択肢となる。

「マルチエージェントの仕組みを学びたい」という方には、Swarmが適している。教育目的に設計されているため、シンプルなコードでマルチエージェントの基本概念を理解できる。

「本格的な開発を行いたい」という方には、AutoGenやCrewAIがお勧めである。Pythonの基礎知識があれば、数時間で最初のマルチエージェントシステムを構築できる。

あなたに合ったフレームワークは?

あなたに合ったフレームワークは?

目的と技術レベルに応じて最適な選択肢が異なる

今日から
試したい

おすすめ

プロンプト

ChatGPTやClaudeに複数の役割を演じさせる

導入コストゼロ
すぐに効果を体感できる
ノーコードで
業務効率化

おすすめ

Dify Langflow

無料のSandboxプランで基本機能を試せる

プログラミング不要
視覚的に構築できる
仕組みを
学びたい

おすすめ

Swarm

OpenAIが公開した教育目的のフレームワーク

シンプルなコードで
基本概念を理解できる
本格的な
開発をしたい

おすすめ

AutoGen CrewAI

Pythonベースで高度なカスタマイズが可能

Python基礎があれば
数時間で構築できる

まとめ

マルチエージェントの実装方法は、プロンプトによる簡易的なアプローチから、本格的なフレームワーク活用まで、幅広い選択肢がある。重要なのは、自社の課題と技術リソースに合った方法を選ぶことだ。

次回は、ChatGPTやClaude、Geminiを使って今すぐ始められる「プロンプトによるマルチエージェント」の具体的な作り方を解説する。プログラミング不要で、今日から実践できる内容をお届けする予定だ。


参考文献

[1] Zenn「OpenAIの『Swarm』でAIエージェントを開発してみた」 https://zenn.dev/dalab/articles/1d4f649c8005a0

[2] MiraLabAI「Difyのエージェントとは?具体的な作り方と使い方や作成例を紹介」2025年9月7日 https://miralab.co.jp/media/dify_agent/

[3] Dify公式ドキュメント「ワークフロー」 https://docs.dify.ai/ja-jp/guides/workflow

[4] ChatGPT研究所「Difyでエージェントノードを更に活用して、マルチエージェントシステムを作ろう!」2025年3月10日 https://chatgpt-lab.com/n/n20eb2d3eee60

[5] IBM「AIエージェント・フレームワーク:ビジネスに適した基盤の選択」2025年8月12日 https://www.ibm.com/jp-ja/think/insights/top-ai-agent-frameworks

[6] ビジネス+IT「AIのマルチエージェントシステムとは? その構築方法、CrewAIでの導入ステップガイド」2024年12月25日 https://www.sbbit.jp/article/cont1/154849

[7] Zenn「AutoGen(マルチエージェントフレームワーク)を試してみた」2024年10月10日 https://zenn.dev/shirochan/articles/a08e8a969412ce

[8] INTERNET Watch「Microsoft『AutoGen』で、生成AIの新時代”マルチエージェント”を試す」2023年10月23日 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/1539313.html

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