前回の記事では、マルチエージェントAIのフレームワークを一覧で紹介した。しかし「Difyもフレームワークも大げさ、もっと手軽に試したい」という人も多いのではないだろうか。
実は、いつも使っているChatGPT・Claude・Geminiに”複数の役割を演じさせる”プロンプトを渡すだけで、マルチエージェントの恩恵を受けられる。この記事では、コピペで即使える実践プロンプトを4つ紹介する。
プロンプトでマルチエージェントを実現する3つの方法
方法①:順次ロールプレイ型
1つのAIに「まず○○として回答し、次に△△として回答して」と指示する方式。最も手軽で、単一の会話ウィンドウで完結する。
方法②:討論シミュレーション型
複数の立場(賛成派・反対派・中立など)を設定し、AI内部で議論させる方式。多角的な視点が得られる。
方法③:リレー型ワークフロー
ChatGPTで下書き → Claudeで推敲 → Geminiで最終チェックのように、複数AIを使い分ける方式。各AIの強みを活かせる。
プロンプトでマルチエージェントを実現する3つの方法
特別なツールなしで、今日から始められる
順次ロールプレイ型
1つのAIに「まず○○として、
次に△△として回答して」と指示
最も手軽で
単一の会話ウィンドウで完結
討論シミュレーション型
複数の立場を設定し、
AI内部で議論させる
多角的な視点が
得られる
リレー型ワークフロー
複数AIを順番に使い分け、
各AIの強みを活かす
各AIの強みを
最大限に活かせる
実践プロンプト例 4選
例1:企画書レビュー3者討論
用途:新規事業やプロジェクト企画の多角的評価
あなたは3人の役割を順番に演じてください。
【マーケティング部長】として
- 市場性・顧客ニーズの観点から評価
- 競合との差別化ポイントを指摘
---
【財務担当役員】として
- 収益性・投資対効果を分析
- リスクとコストの観点から懸念点を提示
---
【技術責任者(CTO)】として
- 技術的実現可能性を評価
- 必要リソースと開発期間の見積もり
---
最後に、3者の意見を統合し、「実施すべきか」「修正すべき点」を結論として出力してください。
以下の企画書を評価してください:
[ここに企画書を貼り付け]
短縮版プロンプト:
以下の企画書を【マーケ部長】【財務役員】【CTO】の3視点で順番に評価し、最後に総合判断を出して。
[ここに企画書を貼り付け]
例2:記事作成ワークフロー
(リサーチャー→ライター→エディター)
用途:ブログ記事・レポート・ホワイトペーパーの作成
以下のテーマについて、3人のエージェントが順番に作業してください。
【リサーチャー】
- テーマに関する重要ポイントを5つ箇条書きで整理
- 読者が知りたいであろう疑問を3つ挙げる
---
【ライター】
- リサーチャーの情報をもとに1,500字程度の記事を執筆
- 導入・本文・まとめの構成で書く
- 専門用語は平易に言い換える
---
【エディター】
- 記事の論理的整合性をチェック
- 冗長な表現を削除
- タイトル案を3つ提案
- 最終稿を出力
テーマ:[ここにテーマを入力]
短縮版プロンプト:
「[テーマ]」について
・【リサーチャー】が要点整理
・【ライター】が1500字執筆
・【エディター】が校正して最終稿を出力。
例3:4エージェント調査分析フレームワーク
用途:市場調査・競合分析・ビジネス課題の構造化分析
以下のテーマについて、4人のエージェントが順番に分析してください。
【情報収集者】
- テーマに関連する重要な事実・データを整理
- 定量情報(数値・統計)と定性情報(トレンド・意見)を分けて提示
- 情報源の信頼性に言及
---
【アナリスト】
- 収集された情報を分析
- 定量分析(数値の意味、比較)と定性分析(パターン、因果関係)を実施
- 洞察を3点に絞って提示
---
【フレームワーカー】
- 分析結果を適切なフレームワーク(SWOT、3C、ファイブフォース、バリューチェーン等)で構造化
- なぜそのフレームワークを選んだか理由を述べる
- 視覚的に整理された形式で出力
---
【クリティカルレビュアー】
- これまでの分析の穴・盲点・バイアスを指摘
- 見落とされている視点や反論を提示
- 指摘を踏まえた最終版の分析サマリーを出力
分析テーマ:[ここにテーマを入力]
短縮版プロンプト:
「[テーマ]」を
・【情報収集者】が事実整理
・【アナリスト】が洞察3点抽出
・【フレームワーカー】がSWOT等で構造化
・【クリティカルレビュアー】が盲点指摘し最終版出力。
例4:戦略立案ピラミッド構築ワークフロー
用途:経営判断・戦略提案・コンサルティング資料作成
以下のビジネス課題について、4人のエージェントが順番に作業してください。
各エージェントの出力を明確に分けて表示してください。
【仮説ジェネレーター】
- 課題に対する戦略オプションを5つ列挙
- 各オプションの概要とメリット・デメリットを簡潔に記述
- 優先すべき仮説を2〜3つに絞り、選定理由を説明
---
【ロジック構築者】
- 優先仮説をピラミッド構造(結論→根拠→事実)で整理
- ストーリーライン(なぜ→何を→どうやって→結果)を構築
- 意思決定者が理解しやすい論理展開を設計
---
【インサイト精錬者】
- 構築されたロジックに対する最大の反論を特定
- その反論を克服した「より強い示唆」に練り直す
- 以下の形式で比較出力:
元の示唆:○○○
↓
精錬後の示唆:○○○(反論○○を踏まえ、△△を強化)
---
【結晶化者】
以下3点を出力:
1. 本質の1文:この戦略を一言で表すと何か
2. アクション:意思決定者が取るべき具体的行動(3つ以内)
3. 30秒エレベーターピッチ:経営層に30秒で説明するスクリプト
ビジネス課題:[ここに課題を入力]
短縮版プロンプト:
[課題]」に対し
・【仮説ジェネレーター】が戦略5案→優先2-3案選定
・【ロジック構築者】がピラミッド構造化
・【インサイト精錬者】が反論克服し示唆精錬
・【結晶化者】が本質1文・アクション3点・30秒ピッチを出力。
AIごとの特性と使い分け(2025年11月時点)
2025年は各AIが大幅にアップデートされた。マルチエージェント的なプロンプトを使う際の特性を整理する。
Claude(Sonnet 4.5 / Opus 4.1)
- 強み:論理的一貫性が高く、長文でも役割を維持しやすい。日本語の自然さはトップクラス
- 最新の特徴:拡張思考モード搭載で複雑な推論タスクに強い。最大30時間の長時間タスク処理が可能
- マルチエージェント適性:役割間の論理的つながりを重視する分析系タスクに最適
ChatGPT(GPT-5 / GPT-4o)
- 強み:柔軟性が高く、多様なキャラクター・トーンを演じ分けられる
- 最新の特徴:Instant(高速)とThinking(深い推論)のデュアルモード搭載。より温かみのある対話トーンに進化
- マルチエージェント適性:創造的なシナリオや、多様な人格を演じさせる討論系タスクに向く
Gemini(2.5 Pro / 2.5 Flash)
- 強み:100万トークンの長大コンテキスト、マルチモーダル対応が充実。Google Workspaceとの連携が強力
- 最新の特徴:思考型モデル(Thinking Model)として推論能力が大幅強化。Deep Research機能搭載
- マルチエージェント適性:大量の資料を読み込ませた上での分析系タスク、画像・動画を含む複合的な作業に最適
使い分けのコツ
| 用途 | 推奨AI |
|---|---|
| 論理的な分析・レポート作成 | Claude |
| 創造的な議論・多様な視点の生成 | ChatGPT |
| 大量資料の分析・Google連携 | Gemini |
| 複数AIリレー方式 | 3つを組み合わせ |
成功させる5つのコツ
- 視点と口調の両方を定義する 「○○の立場で」だけでなく「△△な口調で」も指定すると、役割が安定する。
- 出力形式を具体的に指示する 「箇条書き3点」「500字以内」「表形式で」など、形式を明示すると一貫性が保たれる。
- 各エージェントの出力を明確に区切る 「—」や見出しで区切ることで、役割の切り替えが明確になる。
- 最後に統合役割を入れる 「最後に全体を統合して結論を出す」役割を入れると、散らばった意見がまとまる。
- 反論・修正フェーズを入れる 「前の回答に対して反論・改善点を指摘して」という役割を入れると、品質が向上する。
マルチエージェントを成功させる5つのコツ
プロンプトのちょっとした工夫で、出力の品質が大きく変わる
視点と口調の両方を定義する
「○○の立場で」だけでなく「△△な口調で」も指定すると、役割が安定する
「批評家として、厳しい口調で」
出力形式を具体的に指示する
「箇条書き3点」「500字以内」「表形式で」など、形式を明示すると一貫性が保たれる
「箇条書き3点で回答して」
各エージェントの出力を明確に区切る
「—」や見出しで区切ることで、役割の切り替えが明確になる
「---」や「## 役割A」で区切る
最後に統合役割を入れる
「最後に全体を統合して結論を出す」役割を入れると、散らばった意見がまとまる
「最後に司会者が総括して」
反論・修正フェーズを入れる
「前の回答に対して反論・改善点を指摘して」という役割を入れると、品質が向上する
「批評家として改善点を指摘」
まとめ
マルチエージェントは、フレームワークを導入しなくてもプロンプト1つで今すぐ始められる。まずは今回紹介したテンプレートをコピペして、自分の業務に合わせてアレンジしてみてほしい。
次回は、ノーコードプラットフォーム「Dify」を使って、これらのワークフローを自動化する方法を解説する。
参考文献
[1] Anthropic「Claude Opus 4.1 / Sonnet 4.5 発表」https://www.anthropic.com/
[2] OpenAI「GPT-5 発表」https://openai.com/
[3] Google「Gemini 2.5 リリースノート」https://ai.google.dev/gemini-api/docs/changelog
[4] MiraLabAI「5大生成AI比較」https://miralab.co.jp/media/chatgpt_gemini_claude_copilot/

